石垣島のアクアリウムショップ「シーピーファーム」

自然を傷つけずより自然に優しく、より広く自然のすばらしさを伝える

最高の状態に導くコツ

ナチュラルシステムの基本的な事項については別項でも述べましたが、今回は、サンゴ礁の海に限りなく近い、最高の環境をタンク内に造り上げるためのポイントをお話ししたいと思います。
最高の環境下では、全てのコーラルが状態良くポリプを開いているという事にとどまらず、個々の個体が時を経るごとに美しさを増し、周囲の生物と調和して、より自然で見た目にも美しいレイアウトを生物達自らが時間をかけて造り上げて行くのです。
このようなタンクを造り上げるためには、水質データーでは語る事の出来ないいくつかのコツが必要なようです。私達が今までの経験から得た、最高の環境をタンク内に造り上げるためのポイントを以下にお話ししたいと思います。

ライブロックと生物の多様性

最高の環境を造り上げるために、なによりも大切なポイントはライブロックに生息する生物の多様性です。どれだけ沢山の種類の生物群が、ライブロックに生きているかという事です。
ナチュラルシステムにおけるライブロックの働きを解釈するときに、その表面での硝化作用、内部の嫌気域での反硝化作用がピックアップされがちですが、デッドロック化した生物層の貧弱なライブロックや、セラミックやサンゴ片の濾材ではナチュラルシステムが成り立たない事は明かで、その違いはバクテリアとは別の「生物の多様性」にあるわけです。
何故、ライブロックに棲む微細な生物群が、これほどまでにリーフタンクの環境改善に劇的な効果を及ぼすのか、詳しいことはわかっていませんが、多種多様な生物がお互いに関係しあって限られた環境の中で不思議なバランスを創っていく事が、ライブロックの不思議さであり、水槽環境を良くするための強力な機能に結びつく事は間違いないようです。
初めてリーフタンクを立ち上げる初心者が陥りやすいミスも、ライブロックに問題がある失敗が大半を占めるのではないでしょうか。
海水魚ショップを見て回ると、ライブロックとは言えないような代物を頻繁に見かけます。ライブロックに生息する微細な生物は、非常にデリケートな生物が大半です。流通経路の途中で1カ所でも劣悪な環境に置かれれば、それらのデリケートな生物は耐えられず死んでしまいます。バクテリアのように1種類の生物の数が減るのであれば、その後の環境次第で増殖させることができますが、種類数が減ってしまったものはもとには戻りません。従って輸送から飼育まで一貫してあるレベル以上の環境を維持して、厚い生物層を保ったまま飼育することが必要になるわけです。
ライブロックはナチュラルシステムを支える土台であり、多様な生物層を持つ良質のライブロックを用いたリーフタンクは思いのほかタフで強靱なシステムで、よく思われがちな「ナチュラルシステムは微妙なバランスの上で初めて成功させることが出来るデリケートで傷つきやすいシステム」という観念は間違いです。

時間による生物層の減少

リーフタンクでは、どうしても時間と共に多様な生物層は減少し、環境にあったいくつかの種類のみが繁栄する傾向があります。これはタンクが閉鎖システムである以上仕方のないことです。海水中の微量元素を添加するのと同じようにライブロックやライブサンドの多様な生物層を加えて上げる事は非常に有効です。
半年に一回ライブロックであれば全量の1/3程度を新鮮なものに交換。ライブサンドであればプランクトンパックを追加するなどして多様な生物層を保つ事は、試薬では計れないレベルでの本当に状態の良い環境維持のためには不可欠であると思います。

導入するコーラルの多様性

これは全く経験上のことで何ら確証は持てませんが、ひとつのタンクに1種類のコーラルだけを大量に導入すると、そのコーラルの最高の状態にたどり着けない事が多いようです。この傾向はソフトコーラルで特に顕著の様です。
元気にポリプを開いてはいるのですが、その先の最高の状態にどうしても至ることが出来ないのです。換水を行うとしばらくの間は非常に良い状態になりますが、しばらくすると、またいまいちの状態になってしまいます。同じ水槽にごくわずかの数だけ入れてある他の種のコーラルは最高の状態を維持し続けます。このことを考察すると、そのコーラルが求める微量元素の欠乏にたどりつきます。
海水には地球上に存在する元素のほぼ全ての種類が溶け込んでおり、コーラルの種類によって、特定の微量成分を大量に摂取する特性を持っているのではないか、ある種のコーラルを大量導入すると、その種が固有に求める成分が早期に吸収されつくして、その後欠乏症に陥るのではないか、という仮説です。
もちろんこれらは一般的な試薬では計ることの出来ない領域で、今後折りを見て調べていきたいと思っています。

換水の必要性

ナチュラルシステムで安定したタンクであれば、数ヶ月に一度10%程度の換水でも良い状態を保てるものですが、更に上の最高の状態を目指すのであれば一ヶ月に1/3程度の換水を行う必要があるようです。
ひとつのリーフタンクを構成する様々な機器類や収容してある生物、外部から加えられる餌や添加剤など水質変化に影響を与えるそれぞれの構成要素は、タンクによって異なり、おのずとタンク毎に異なる癖のような物が生じます。海水の成分構成は必ず時間と共に変化して本来のバランスを失っていきます。そのバランスを維持するために代表的なところではカルシウムの添加をはじめ各種水質添加剤などが用いられるわけですが、これらでは補えない様々な微量元素の欠乏や老廃物の蓄積が、タンク毎に異なる度合いで存在します。目下の所、この試薬では計れない要素の崩れたバランスを修正する手だては換水による方法が最も確実で効果的な手段であり、限りなく最高に近い状態を維持するために不可欠なことと思います。

水量と安定性

海はきわめて安定した環境であり、ほとんどのリーフタンクの生物達はその安定した環境に順応したデリケートな生物です。
例えば水温を考えると、一般に広大な海の中では一日を通じてほとんど水温の変化はありませんが、水槽という限られた環境では外気の影響で、昼と夜では水温が0.5度位変わってしまうようなケースは往々にしてあるものです。毎日0.5度水温が上下するという事は、干潮時に周囲の海域から孤立するタイドプール等を除いて、あきらかに自然の海とは違う異常な環境で、致命的ではないが少なからず生物達に無理を強いることになり、なんとなく状態が良くない、本調子ではないというようなことになってしまいます。
海の生物達はそのほとんどが究極の温室育ちばかりで、水温に限らず、水質、水流、光等全ての環境要因に同じような安定性が求められます。
環境変化は多かれ少なかれ水槽という閉鎖システムでは逃れることの出来ない事項で、特に最も大切な水質全般の変化を最小限に留め、また変化をゆっくりと推移させる最も有効な手だては豊富な水量のタンクを用いることです。
以上の事は、基本的な水質の概念や水流、光、その他の環境要因、各コーラルの自然での生息環境に合わせた配置などの基本事項が満たされた上で、さらに上の環境を目指すために必要または有効と思われる事項です。
大切なことはバランスで、環境を構成する各々の要素が全て満たされて、初めて最高の状態の環境システムが完成され維持されるということです。
自分のタンクを最高の状態に導きたいということはアクアリストであれば誰しもが思うことで、その為にはかなりの勉強と労力が必要になります。しかし最高の状態の生物達が放つ魅惑的な美しさは、それを遙かに凌ぐ感動を私達に与えてくれるでしょう。